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●ダイナミックな問題解決活動としてのデザイン

 デザイン教育というと、基本的には美術教育の範疇に含まれることは言うまでもないだろう。最近はデジタルツール(コンピュータ)への習熟が求められたり、少し様相も変わってきているとはいえ、基本的には表現のための技術を叩き込む場所として機能しているわけだ。メディテーション(瞑想)や即興演劇のエッセンスが組み込まれたデザイン教育の現場があるとしたら、ちょっと想像し難いのではないだろうか。ところが、実際にそんな場所がある。スタンフォード大学でデザイン/エンジニアリング教育者向けに開催されているワークショップがそれだ。
 多彩な身体的なエクササイズ、発想法やドローイング、それらの技法に基づく少人数のグループワークまで、創造的な問題解決活動としてのデザインプロセスを非常に濃密なかたちで体験できるこのワークショップの前には、旧いスタイルのデザイン教育のスタイルは見事に吹き飛んでしまうような気がする。
 正式には、「エンジニアリング教育における創造性ワークショップ」と名付けられたこの試みは、スタンフォード大の機械工学科プロダクトデザイン部門の3人の教授が、1980年代から始めた隔年ペースでおよそ2週間にわたって開催している。主な対象者は、大学や企業でデザイナーやエンジニア向けの教育を担当している教師で、つまりはプロのデザイン/エンジニアリング教育者が自分たちのスキルやセンスをより一層磨く場、というわけだ。
 その基本にあるのは、デザインやエンジニアリングに関する教育を、単なる知識の受け渡し(教える/教えられる関係)ではなく、ダイナミックな問題解決の営みだと捉えるスタンス。学び手側が本来備えている隠された創造性をいかに豊かな形で引き出していくか、その具体的な方法論や考え方が、濃密な体験として提供されていくのである。
 内容は、大きく分けて次のような6つのプロセスにわかれて展開される。「リラクゼーション」「見ること」「描くこと」「発想すること」「問題を発見すること」「問題を解決すること」――これらのプログラムにそれぞれ身体行為をベースにした各種のエクササイズ(リラクゼーションメディテーション、ブレインストーミング、ドローイングなど)を中心にグループディスカッションや関連資料のリーディング課題が含まれており、最後の問題発見〜解決のプログラムで受講者に対して仮想的なプロジェクト課題が与えられ、少人数のグループを組んで共同制作に取り組む、というのが一通りの流れとなっている。

 ●メディテーションから発想法のトレーニングまで

 具体的に、どんなエクササイズが展開されるのだろうか。たとえば、リラクゼーションのプログラムでは、文字通り身体をリラックスさせ、頭脳を活性化して思考を集中するためのエクササイズが行われる。たとえば、両手両足をそれぞれクロスさせて、組んだ手は顎の下に置いてしばらく目をつむる、などといった簡単な方法で思考を集中するもので、これらは「ブレイン・ジム」と呼ばれている。
 次に、ドローイングのプログラム。ここで学ぶのは、ポップコーンなどの対象物をまるで指で触れるようにしてディテールを注視しながら手元は見ずに描く「コンター・ドローイング」などの手法。描くことによって視覚的なモデルを作りだそうとする、まさに「ビジュアルシンキング」の根幹にあるプログラムといえるが、この考え方については後述する。発想法のエクササイズでは、「マインド・マッピング」というトレーニングが行われる。これは、大きなスケッチブックの中央から放射状に思いついたアイディアの連鎖を描き込んでいくというもので、思考の枠組みを可視的にすることで自らの想像力をネットワーク状に組織化することができるようになる。
 その他、参加者が輪になってジェスチュアと擬音をまじえてメッセージを交換しあう「ボールゲーム」という一風変わったブレーンストーミング、ディヴィッド・ホックニー風の写真コラージュの作成など、創造性を喚起する実に多種多様なプログラムが行われる。
 即興演劇や舞踏、あるいは禅のような東洋的なメディテーション、気功や合気道まで含めた多様な身体文化からの「引用」によって成り立っているこのプログラムの根幹にあるのが、「ビジュアル・シンキング(視覚的思考)」という考え方だ。

 ●表現する―評価する―繰り返す」の循環をつくる

 スタンフォードで教鞭をとっていたロバート・マッキム教授が40年以上前に提唱した「ビジュアル・シンキング(視覚的思考)」。人間の思考活動が知覚のなかでもとりわけ視覚と密接に結びついているという心理学的・生理学的な知見をベースにしたこの考え方は、漠然と頭の中に浮かび上がるアイディアや概念をドローイングなどの手法によって視覚化し、個人の脳を超えて外在化することによって発展させ、それをさらに問題解決のプロセスに組み入れることで、エンジニアリングやデザインにおける創造力を喚起しようというものである。
 ビジュアル・シンキングのコアに据えられているのは、「見る(see)」「描く(draw)」「想像する(imagine)」という3つの行為。この3つはさらに「表現する(express)」「評価する(test)」「繰り返す(cycle)」の「ETC」というフィードバック・ループに組み込まれることによって、問題発見―解決における創造的なプロセスが有機的に機能することになるという。
 ビジュアル・シンキングの発想のなかには、「両脳思考(ambidextrous thinking)」というコンセプトも含まれている。人間の脳は論理的・デジタル的な思考をつかさどる左脳と、情感的・アナログ的な思考をつかさどる右脳にわかれているが、創造性は、この二つの脳の双方が活性化され、左右の脳のあいだで活発な情報のやり取りが行われることで発揮される。前述のワークショップで、パフォーミング・アートや東洋思想をも取り込んだ身体技法が組み込まれているのはこうした理由からだ。左右それぞれの脳がつかさどっている身体全体を活性化させ、デザイナーやエンジニアが、自らの内面から発想やアクティビティを変えていくこと――こうしたスタンスは、ともすればデジタルツールに埋もれテクノロジーに「使われる」傾向に陥りかねないデザイナーやエンジニアの現状に対する強烈なメッセージといえるのではないだろうか。
 「身体全体で思考する」センスやスキルを身に付け、そこからデザイナーのワークスタイルを組み換えていこうとするこのワークショップには、テクノロジーに呑み込まれることなく、それと対峙し、使いこなすタフな姿勢を獲得していくためのたくさんのヒントが隠されているように思える。


【ヴィジュアル・シンキング】


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2002/12/1 登録
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