

|  | ソニーコンピュータサイエンス研究所の暦本純一氏が開発した「時間指向インターフェイス」のプロトタイプ。javaでつくられた仮想のデスクトップの状態を時間軸で操作することができる。
TMCの発想は、あの一世を風靡したベストセラー『「超」整理法』(野口悠紀雄著、中公新書)の考え方と通じるところがある。
「超」整理法は、要するに、情報は内容や意味によって分類し整理するではなく、時間軸にデータを並べていくだけでいい、ということを提唱した考え方だ。とにかく使ったものは最前列に置いておく。使わないものは次第に底の方にたまっていく。そうすれば、分類に頭を悩ませることはなくなる、というわけだ。
TMCは、基本的にこのシンプルな方法と同じ原理にもとづいている。開発されたソフトウェアは、通常のウィンドウズのデスクトップ画面の上に覆いかぶさるかたちで機能しており、使っている人はいま仕事で必要なファイルや付箋に書いたメモ、デジカメで撮った画像などをデスクトップにとにかく片っ端から置いていくだけ。そして、仕事が終わればゴミ箱に捨ててしまう。
しかし、ファイルを捨てる行為はあくまでも仮想的に行われているだけで、コンピュータのファイル・システムとしては裏ですべて保存されている。これが「タイムマシン」と呼ばれる所以は、画面の端にある操作バーを動かすことにより、過去のデスクトップの状態に即座に遡ることができるためだ。いま私たちが使っているソフトウェア、たとえばウェブブラウザでも設定によってかなりの件数の履歴を残すことができ、過去に自分が情報空間のどこを徘徊したのかをイメージすることはできる。スケジューラや電子メールソフトなども含めて、自分の過去の情報行動を保存し一覧することはこれまでのアプリケーションでもある程度は可能だが、TMCはそれらすべてを、時間軸で管理して再現できるようにしたのである。
通常、捨ててしまったデータはバックアップがない限り呼び戻すことは不可能だが、TMCは時間軸で情報を管理することによって、過去のどの時点のデスクトップ画面も即座に「アクティブ」な状態に戻すことができる。捨てたばかりファイルは半透明で残っていたり、かなり前に貼った付箋は古くなって褪色していたりといったギミックによって、本来デジタルの世界には存在しない「劣化による時間経過」の表現が施され、人間のもつあいまいな記憶を呼び起こすような工夫もなされている。
さらに、現在と過去のデスクトップの状態を行き来するだけでなく、年表やカレンダーのような時間軸ベースのインターフェイスに変更することもできる。ハードディスクの記憶容量の問題はあるにせよ、一日のかなりの時間をコンピュータを媒介にした仕事やコミュニケーションに費やしている私たちにとって、TMCのインターフェイスはファイル・システムのなかに再現された「自分史」として捉えることも可能だろう。
本来、コンピュータは内蔵されているCPUのクロックが独立して時間を刻むだけで、過去から現在へと流れる人間の時間とは無縁だ。あれほど騒がれた「2000年問題」も実はそこに起因している。これに対し、TMCという研究は、本来は時間性が希薄なデジタルの情報空間に、「流れとしての時間」を眼に見えるようにしている。人が情報と出会い使いこなすためのスタイルを、より直感的で分かりやすいスタイルに仕立て直し、コンピュータによる情報管理の制約に突破口をあける試みとして、時間軸による情報管理のデザインの方向性はかなりモノになりそうな予感がする。 http://www.csl.sony.co.jp/...
|  |  |  【タイムマシン・コンピューティング】

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