ピタゴラスイッチ 渡辺保史@智財創造ラボ
【ピタゴラスイッチ】 学習環境 学習環境
『ピタゴラスイッチ』は、毎週火曜日と水曜日の朝に放映されている、小学校就学前の幼児向けの15分番組(5分間の短縮バージョンが夕方にも放映されている)。これの何がどう面白いかというと、今までの教育テレビの番組が踏襲していた、ある種の「ジャンル」を取っ払い、メタジャンルのような新しいチャレンジをしていることが感じられたからだ。

いや、こういう難しい言い方をしても何なので、とにかく、まずはどんな中身かを紹介していくことにしよう。たとえば、記念すべき第1回目はざっとこんな流れだった。

オープニングには、色んな道具をあれこれ組みあわせた中をちっちゃなボールがコロコロ動いていったりする仕掛け――そう、喩えて言うならむかーし『トムとジェリー』のあるお話しに出てきたような、過剰な仕掛けのねずみ捕りみたいなヤツ――が登場。まずこの妙ちきりんで楽しい「つかみ」に、子ども達は「ん?なんだこれ?」と視線がくぎづけになる。その後は、1-2分間くらいの短いコーナーが連続していく。

最初は、かわいいペンギンの「ピタ」と「ゴラ」そして「百科おじさん」というキャラが登場しての人形劇で、「たいやきは、なぜみなおなじかたちなの?」ということが話題になり、その種明かし。「おとうさんスイッチ」では、子どもがお手製のリモコンの「あ」のスイッチを押すと、おとうさんがあくびをしたりする、ちょっと不条理で笑える親子ゲーム。次に、公園でヘンなおじさん(ラーメンズの小林賢太郎)がピザの生地を広げて空中にほうり投げる動作をするというコントのようなコーナーがあるかと思えば、「フレーミー」という文字通りフレーム(枠線)だけでできた犬のCGアニメへ続き、「きょうのスイッチ」では、おじさんが観覧車のイルミネーションの点灯ボタンを押すところが紹介される。タイトルだけで思わず吹き出してしまう「アルゴリズムたいそう」は、二人組の若いおにいちゃん(ダークスーツ姿の「いつもここから」)が、「あっち向いてふたりで前ならえ、こっち向いて二人で前ならえ」などと唄いながら、微妙に組み合わされた不思議な動きで体操する(ご丁寧に「ひとりでれんしゅう」モードもあり)....ざっとこんな風に色々つまった、おもちゃばこのような15分間。
 
自分の子ども時代から考えても、こういう「ヘン」な子ども番組というのはかなり後々まで記憶に残っているものだ。たとえば、日本テレビ系で放映されていた『カリキュラマシーン』がそうだったし、ある意味で得体のしれないマペットたちが英語でしゃべっている『セサミストリート』も、子どもの目線からすれば十分に異世界のようなものだった。最近(でも、もう10年近くも前だな)だと、フジテレビでやってた『ウゴウゴルーガ』。今やメディアアートの若き巨匠である岩井俊雄も参加し、今は懐かしきAMIGAなどのツールで繰りだされたシュールで不気味でちょっとかわいいCGキャラの数々は、徹夜明けで何の気なしにテレビをつけた僕に、「うーむ、子ども番組も侮れないなぁ」と強く印象づけてくれた。

で、話しを『ピタゴラスイッチ』に戻そう。番組の最後にクレジットが流れるのだが、ここで僕は「ははぁ、やっぱり」と思わず頷いてしまった。この企画や制作には、「ポリンキー」や「バザールでござーる」などの傑作CMや、あの「だんご三兄弟」を手掛けたプランナーの佐藤雅彦が参加している。タイトルロゴやキャラクターのデザインテイストから何となく想像はできたのだが、最近の佐藤さんの「仕事」が気になっていた僕としては、「いやぁ、そう来ましたか」てな感じなのである。

実は、佐藤さんはプランナーとしての仕事の傍ら、1999年から慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)にある環境情報学部で教鞭をとっている。そこで学生たちと一緒に彼が取り組んでいるのは、「考え方を考える」という学びのデザインだ。学校の勉強は、問題に対して答えを出すというのが基本。しかし、世の中にはあらかじめ決まっている答えなんてない方が普通。だったらもっとベーシックに、考えるということを一生懸命やるべきだ、というわけ。言い換えれば、問題を自分でつくり出す力をつける、ということになる。

『ピタゴラスイッチ』は、そんな佐藤さんの教育に対するスタンスがはっきりと打ち出され、それを小さな子ども向けにリファンしたかたちでデザインされているわけだ。物事の背後に隠れているルールや手順、構造、動き。そういった問題発見の力を、面白く、楽しく子どもたちに気づかせること。これは、今まで国語や算数、英語といった科目(コンテンツ、と言い換えてもいいかもしれない)を教えることに終始してきた学校教育ではとりこぼされてきた部分をすくいあげようとする試みといえるだろう。

コンテンツではなく、その背後にあるコンテクストを見つけ、編む力(僕的にいえば情報デザイン力)を、小さな子どもの段階からエクササイズしていくことは、これから絶対必要になる。そういう意味では、佐藤さんもイイところに目をつけたよなぁ。いやほんとに。
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